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(Hinz: 25; A: 17b<20b>)

第4章1

優れた書記達が帳簿の記号と規則として定めたいくつかの方法

 ――それぞれには個々に特定独自の名前が付けられている2―― 



 会計冒頭(ṣadr al-ḥisāb)3と会計の母(umm al-ḥisāb)
 それは、当該の会計がいかなる費目や用件を含んでいるのかわかるようにするべく、会計の最初に書かれる大本となるもの(aṣl)4である。たとえば・・・5

 日付(tārīkh)
 それは、期間の特定であり、「会計冒頭」の次に書かれる。当該の計算書(muḥāsaba)がいつ書かれたのかわかるようにするためである 6。 

 認証記号(jā’iza)7 
 それは金額を確認するため(bi jihat-i taṣḥīḥ)にある。金額を照らし合わせ、金額の後ろに(ākhir-i mablagh)の上に、「1」のように書く。もし、二度[確認した]ならこのように「2」と書く8。神かけて[?]。 それは、金額を確認するため8にある。金額を照らし合わせ、金額の末尾の斜め上に、「ا」のように書く9。もし、2度[確認した]ならこのように「۲」と書く10。神かけて11

取消線(tarqīn)12
   それは、帳簿上に生じたある決定について、その決定を無効(bāṭil)にするものの、[完全に]削除しないためのものであり13、以下の通り書く14
                                           
 
(A: 18a<21a>)
個別集計(tārīj)15 
    計算書(muḥāsaba)が作成され、合計しようとする際には常に、説明抜きで別紙に (kāghazi pāra)[数字を]書き出し、そのあとで合計を行う。 計算書が作成され、合計しようとする際には常に、説明抜きで別紙に(kāghadh-i pāra)[数字を]書き出し16、そのあとで合計を行う。
(Hinz: 26) 

200個 (‘adad) 156 25 35 1000 2000 300
46 75 360 950 144 227
 594                 合計 (al-jumla) 611217

用紙(waraq)18
    各頁が2つの部分に折られ、その各部分を欄(ḍil‘)と呼ぶ1枚の紙のことである。右欄から書き始める。2欄に及びそうな内容を書く場合、右欄に書くべきことが[終わらない場合は]その残りの部分(tatamma)19を、[次の紙の]右欄に書かねばならない20。左欄に書くべきことも、推定の通りに。以上の通り、残りすべての紙についても同様である21

(A: 18b<21b>)
マッド(madd)22
    計算書において、最後の文字を伸ばして書く語のことである23。最後の文字を伸ばして書くことができる性質のものなら[そうするが]、さもなければ、最後の文字と前の文字の間に、ラーダ(rāda)を引く24。そのあとで、最後の文字を書く。以下書かれているように。

             ライ          スルターニーヤ        タブリーズ
       

条(ḥarf)25と項(daf‘a)26

(Hinz: 27)
  [条、すなわち]ハルフ(ḥarf)とは、原義では、何かの諸辺のうちの「1辺」のことをいう。[項、すなわち]ダフア(daf‘a)は1「回(marra)」を指す。ディーワーンの人々(jamā‘at-i dīwān)の術語として、この2語とも意味としては、先行する集合体の一部(ba‘ḍī majmū‘-i sābiq)であることを示すものである。その[先行する項目の]下に記される内訳と内々訳と同じ書式[で書かれる]27。内訳や内々訳(min-hā-āt yā min dhālika-āt)にあたる語が引き延ばして書くことに性質上適さないとしたら28、条や項を書き、そのあとに[その語を]書く。条は(A: 19a<22a>)項の前になければならない。条が書かれ、条のあとになんらかの内訳(tafṣīl)が書かれるなら、今度は項を書く。つまり、項が条から派生するように、条も項から派生するのである。以下に例示するように29


合計(jam‘)と完了(takmīl)
    会計上の諸金額を合計することと、合算を記述することである30。収支の整数と分数を合計する際に、帳簿にある詳細な整数・分数を正し、金額の数字の上に「認証記号」を書き込む。すでに例示した通りに31。そのあとで、帳簿の上のあちこちに記されている額、つまりそれぞれ決まった場所に記されている額をすべて、想定される順番に従って、分数、1の位、10の位と最後の位まで合計してゆく。そして[合計した額を]「補足(ḥashw)」の最後の条のところに書く。このことを会計の専門家の術語では「合計と完了」という。




1 Aには章番号はなく、「4」は校訂で補われたものである。Mでは「第5章」(M: 23)。本章のMの該当箇所はM: 23–29。この章の内容に関して、同時代の他の簿記術指南書では以下の箇所で説明されている。Murshid: 90a, 93b–96a; Sa‘ādat-nāma: 50, 59–62, 62–63, 68–71, 77–81; Qānūn al-Sa‘āda: 1, 4, 5, 7; Jāmi‘ al-Ḥisāb: 6–7; Nafā’is al-Funūn: I, 313–314, 317, 319。 
2 Sa‘ādat-nāmaQānūn al-Sa‘ādaは、Falakīyaとは異なり、「認証記号(jā’iza)」と「個別集計(tārīj)」についてそれぞれ独立した章を立て解説している(Sa‘ādat-nāma: 59–62; Qānūn al-Sa‘āda: 4)。これは、この2つの事項が帳簿作成上の規則と認識されていたためであろう。また、前述の2書では、会計冒頭が内訳・内々訳方式(min-hā, min dhālika)および梯子段方式(nardbān-pāya)と同じ章で解説されている。なお、この2書とFalakīyaでは使用する語句については共通性が多いが、説明の構造については異なる点が多い。Falakīyaは原則や理論を重視し、前述の2書は簿記術の機能に着目して書かれているように思われる。
3 ṣadr al-ḥisāb:“Hauptbuchung, “Kapitel” ”(Hinz, Indices: 22)、すなわち「(帳簿の)冒頭に記入するもの、元本」。  
4 aṣl:“Grundbetrag”(Hinz, Indices: 14)、すなわち「基礎額」。
5 Mの記述とほぼ同じ。ただし同本では、このあとに簡単な実例が続く(M: 24)。  
6 Mでは、このあとに「会計冒頭にあたる語句を書き終えたなら、日付を書かねばならない」と続き、さらに簡単な具体例が挿入されている(M: 24)。 
7 jā’iza:“Richtigkeitsvermerk in Rechnungsbüchern, “Abhakezeichen” ”(Hinz, Indices: 17)、すなわち「帳簿における正確さの覚書、点検したことの記号」。
8  校訂では前置詞baが抜け落ちているが、AおよびMではba-jihat-i taṣḥīḥである(M: 23)。  
9 校訂に間違いがあると考えられる。校訂に従って訳すと以下の通りである。「金額の末尾(ākhir-i mablagh)の上に、「良い(khūb)」と書く」。Aの当該箇所を、ヒンツは、「良い、そして(khūb wa)」と読んでいるが、「アリフのように(chūn ا )と読むべきであると判断した。さらにMでは、「斜めのアリフを書く」と説明している(M: 24)。
10  Mでは、この部分について詳しく説明を行っているので、参考のために以下に引用する。「それは金額を確認するためにある。金額を照らし合わせ、金額の末尾の上に書き込む。たとえば、「某の下賜100ディーナール ا 」といったように、斜体のアリフを引く。2度照らし合わせたときには、「認証記号」を۲(2)と記入する。3度照らし合わせたなら、۳(3)と記入する。4度照らし合わせたときは、斜めのアリフに、ちょうど۴(4)のように、サード[ص]の頭を付け加える。5度照らし合わせたときには、ハー[ح]をそれに付け加えて、「正しいصح(ṣaḥḥa)」の記号とする」(M: 24)。 
11 校訂では、最後の「神かけて(Wallāh)」を「۲」と並立して、合計金額の上に書く語句であると見なした形跡があるが、そうではなく、修辞上の記述と考える。  
12 tarqīn:“Rückbuchung, Storno”(Hinz, Indices: 23)、すなわち「反対記入による訂正」。 
13 Mでは、「それは日誌(rūznāmcha)または他の帳簿において、ある決定を無効とするが、疑いの余地をなくすために、金額を削除せずに、そのまま残しておくためにある。そして無効の記号をその上に引き、無効となった理由をその下に書く」と説明されている(M: 25)。 
14 Mでは、このあとに具体的な実例が続く(M: 25–26)。  
15 tārīj:“Buchungsaddition, Additionskolumne”(Hinz, Indices: 23)、すなわち「帳簿・簿記上の付加、付加段」。
16 校訂では、「紙上に書かなければならない(bar kāghadh bāyad bi-niwīsad)」と記される。一方、Mでは「別紙に書かれる(bar kāghadh-i pāra bi-niwīsad)」と記されている(M: 26)。Aにおいても上記の異同箇所についてbāyadではなくbāra(pāra)と書かれているとも読めるので、その読みを採用した。 
17 Mに記されている例はより単純なもの。また例のあとに以下の補足説明があり、実例が続く。「もし金額が非常に多く、一度に合計(‘aqd)することが非常に難しい場合、各行ごとに合計し、その下に斜めの線を引き、その斜めの[線の]下に各行を合計し、そのあとに斜めに書いた数字を合計する」(M: 26)。  
18 waraq:“zweispaltiges Buchungsblatt”(Hinz, Indices: 24)、すなわち「2列になっている帳簿の葉」。  
19 校訂では「半分(NYMH)」と読むが、Mでは明らかに「残りの部分(TTMH)」と記されており(M: 27)、Aでもそのように読むことが可能である。 
20 校訂をもとにすると文意が通らない、「終わらなかったとしたら」と「次の紙の」の部分をM: 27より補った。  
21 Mでは、このあとに簡単な実例を記す(M: 27)。  
22 madd:“Dehnungsstrich, dessen Länge bei den einzelnen Buchungen “Kapitel” oder “Titel” usw. anzeigt”(Hinz, Indices: 19)、すなわち「伸張線、元本やタイトルなどを(帳簿に)それぞれ記入する際の伸び」。  
23 Mでは、「条(ḥarf)、項(daf‘a)または計算書のなかに現れる、ある語(kalima)の最後を伸ばして書くことである」と説明される(M: 27)。 
24 校訂ではrāḥaと読んでいるが、AおよびMではrādaと記されているので(M: 27)、こちらを採用した。Mでは、「もし最後の文字が伸ばすのに適していなかったら、最後の直前の語を伸ばす。もし、いずれも伸ばすのに適していなかったら、ラーダを引く」とある(M: 27)。つまり、このラーダは「補助線」というべきものである。なお、この語についてLughat-nāmaは「書記術の用語で、行の上に挿入的に記される記号のことであり、省略されたり抜け落ちたりした語が余白に書かれていることを示すためのものである」と説明している。  
25 ḥarf:“Einezelbestandteil eines Buchungspostens”(Hinz, Indices: 18)、すなわち「ある簿記・帳簿の内訳において単一のものとして立項されている部分」。
26 daf‘a:“Teilposten einer Buchungssumme”(Hinz, Indices: 15)、すなわち「ある簿記・帳簿の合計額の一部」。  
27 Mでは、冒頭の説明は「大本、内訳、残余(bāqī)のあとで、引き伸ばして書くことがその性質上適切でない語が発生した場合、条と項を書き、そのあとで当該の語を記入する」となっており(M: 28)、2語の語義についての説明はない。 
28 この部分について校訂はba-ḥusn-i ṭab‘ munāsib na-bāshadと読むが、AとMではba-ḥasab-i ṭab‘ munāsib na-bāshadとなっており(M: 28)、後者の読みを採用した。
29 Mでは、このあとに具体的な実例が続く(M: 28)。
30 Mではdar sarbālā niwishtanと記されている(M: 28)。ナビープールはsarbālāを「合算、列の配置(Additionsaufstellung, Kolumnenanordnung)」と解釈している(Nabipour 1973: 163)。ここでは、「合算」と解釈した。 
31 「例示した通りに」とあるが、これは「認証記号」の説明のことを指す。ただしここでは実例が省略されている。当該部分について、Mは下記のようにやや詳しく説明しているが、実例・記号を書き込んでいないなど、こちらも不完全である。「帳簿を原本と対照させ、金額の数字の上に認証記号を書き込む。これは前述の通りである。認証記号は斜めの記号からなり、…[空白]のようになる。認証が2回であるなら…[空白]、3回であるなら…[空白]、4回であるなら…[空白]、5回であるなら…[空白]。そのあと、もし分数があったなら、最初にそれらを合計し、その後1の位を、その後10の位を、その後100の位を、その後1,000の位を、と限りなく合計する」(M: 28–29)。        

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